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コーヒー試飲専門店「Cottea」からのお知らせページです。

コーヒーのある日常 #3「360な姉妹」with Cottea No.360

コーヒーのある日常 #3「360な姉妹
 

「……ただいま」

 

平日の昼下がり。家のドアを開けると、大きなキャリーケースとギターを持った女がいた。

私は、あまりにも急なその訪問に、言葉を失った。

「どうしたの?」

「……帰ってきた」

「なんで?」

「……だめ?ここ、私の実家でもあるんだけど」

「そうだけど」

「……明日から、ここで暮らす」

私の妹は、そう言って、私と目を合わせないようにそそくさと靴を脱いだ。

確かにここは妹が生まれて育ってきた家でもあるけれど……。

「ちょっと」

自分の部屋に行こうとする妹を引き止める。と、彼女は「あ」と言って、キャリーケースの中から白い紙の袋を取り出した。

「これ、お土産」

その袋には、No.360と書かれている。

「コーヒー豆。私これ好きだから、お姉ちゃんも多分好き」

「……ありがとう」

「荷物、部屋に置いてくる」

「終わったら戻って来な。これ、飲もう」

 

 

妹は高校卒業と同時に、歌手を目指して東京に出た。音楽関係の専門学校に通い、卒業した後は、歌手としてライブハウスを転々としながらバイトをして生きていた。

一度だけ、妹が24歳のときに深夜ドラマの主題歌に抜擢された事があった。雑誌やラジオなんかにも出て、年末にこちらに帰ってきたときはとても誇らしげだった。

しかし、現実はそううまくはいかない。妹の曲が売れたのはその一回きりで、その後は再びライブハウスとバイトの生活にすぐに戻ってしまっていた。しばらく、実家にも帰ってきていなかった。

妹は、今年でもう29歳になる。両親は、地元に戻って就職か結婚でもするように何度も言っていた。しかし、一度中途半端に売れてしまったせいか、決して自分の道を諦めようとはしない。私も何度も連絡したが、全く連絡が取れなくなっていた。

……そんな妹が、なぜ突然帰ってきた?

そこまで考えたとき、ちょうど、電気ポットがお湯を湧いたことを知らせてくれた。

 
 

 

「……今日、いるとは思わなかった。平日なのに」

「私、土曜出勤だから、週一回は平日休みなんだよ」

「そう……」

私たちは、テーブルに向かい合わせになってコーヒーを飲んだ。

重苦しい空気にそぐわないさわやかな酸味と甘みと飲みやすさ、は、私の好みの味だった。

 

「……ここのお店のコーヒーさ、色んな味があって、好みの味を選べるんだ」

妹はカップのフチをなぞっている。その指先を見つめながら、煮え切らない口調で話していた。

「……そう」

「……No.360って書いてあるでしょ。それが味の名前」

「そう」

「表参道にあって……」

「そう」

「……こういう、スッキリした味、好きでしょ?」

と、妹は「スッキリ」とはほど遠い表情で言った。

私は、何も言わなかった。妹はまだカップのフチをなでている。

重苦しい沈黙が流れる。

 

私は、コーヒーをくいっと飲んだ。

 

「……で、なんで帰ってきたの?」

妹のフチをなでる手が止まる。一度私の方を見て、再び視線を落とした。

「……もう、疲れた」

妹はポツリと言った。

私は「そう」と答え、その表情を見た。

妹は、なるべく押さえようとしていたのだろうが、顔からは悔しさと悲しさが漏れだしていた。

「で、音楽はもうやりたくないの?」

「そういうわけじゃないんだけど……」

 
 

高校時代の私も、卒業したら東京に行きたい、と言う事を漠然と考えていた。

しかし、いざ、その事を両親に話してみると、「長女だから」という時代遅れも甚だしい両親の思考で許してはくれなかった。高校を出たら地元の大学に進学し、そのまま地元で就職した。

そうやって、私を地元に確保したから安心したのだろう。妹の東京に行きたいという提案は、両親はすんなりと受け入れた。

だから、妹のことがとてもうらやましかった。

「さっさと失敗して、こっちに帰ってくればいいのに……」

妹が東京に出て少なくとも3年くらいはそんな事を思っていた。

今はそのほとぼりは冷めた、のだが、妹のこの態度を見ていると何となくイライラがこみ上げてくる。

「じゃあ、そこまできたんなら最後までやりきりなさいよ」

「けどさ、もう、これ以上は多分厳しいよ」

「あのね……」

妹の沈んだ顔を見ていると、更にいらだちがつのる。

「私がどれだけあんたを羨ましいって思ってたか、知ってるの?私だって東京に出たかったのに、お父さんとお母さんが許してくれなかったの。だから、ずっとこっちで暮らしてるの。あんたは東京に出られたの。だから、だから、そんな、たいした理由も無いのに諦めようとすんじゃないよ。もう一回聞くけど、音楽もうやりたくないの?」

「やりたくない訳じゃないけど……」

「じゃあ、やりなって」

「けど、もう29だよ、私」

「私はもう33だ」

「いや、だから何?」

ああ、もう!

私は机の上にあった携帯を手に取り、ブラウザを立ち上げる。

「何してんの?」

「何か」

「は?」

「……よし、できた。」

「何したの?」

「あんたを東京に送り返す」

「え?」

「東京行きの特急の指定席、取ったから」

「はぁ、何勝手なしてんの?」

妹は勢い良く立ち上がり、私から携帯を奪おうとした。

「キャンセルしてよ」

「これ、キャンセル不可能なの」

「はぁ?」

「ほら、早く」

「何時発?」

「17時」

「あと三十分しか無いじゃん」

「だから、早く出て行きなさい、ほらほらほら、荷物荷物」

私は、妹を自分の部屋にやると、キッチンへ向かう。

 

キャリーケースとギターを持った妹が文句を言いながら部屋から出てきたとき、私は、キッチンから取ってきた小さな白い袋を投げた。妹は、突然自分めがけて飛んできたそれを、慌てて両手でキャッチした。

「何これ?」

「餞別」

「は?」

「この前ネットで買って、ちょうど昨日届いたの。まだ開けてないからあげる」

妹の手には、No.360と書かれたコーヒー豆の入った白い袋があった。

「頑張ってきな。まずはその辛気くさい表情をスッキリさせて!」

妹は口元を緩めると、玄関から出て行った。

 
 

妹を見送った私は、部屋に戻ってコーヒーを飲んだ。

私と妹の好きなコーヒーは、スッキリとして、少し、甘かった。

 

 
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