コーヒーのある日常 #5「闇を、飲む」with Cottea No.460

コーヒーのある日常 #5「闇を、飲む」

 

終わりは突然やってくる。

それは例えば夜11時、駅前の交差点、とか。

 

「ごめん」

と、あいつが言った瞬間、私はただただアホみたいにポカンと口を開けていた。ドラマのようなせつな悲しい表情なんかとはほど遠い。

別れの理由は良く覚えてなかった。そんな事よりも「なんでデートの終わりに言うんだよせっかく今日の仕事このために早めに切り上げたのにバカやろう」と、いうことで頭がいっぱいだった。

その後、私たちはいくつかのやり取りをして、それぞれの帰路についた。

 

翌日も私は仕事だった。しかし、2年続いた関係の終焉は、特に悲しみはもたらさなかった。

いつも通りに仕事をこなした。そして、いつも通りの時間に仕事をいつものように終え、電車に乗った。

なんだ、失恋なんてこんなものか。

……なんて思っていた、が、こんなもんじゃなかった。

 

最寄り駅で降りて、家に帰る途中、急に悲しみといらだちが襲いかかってきた。

あまりにも突然だったので、我慢をしようにもできない。

地面を踏みしめるリズムが不安定になる。涙が止まらない。

さっきまでの自分を思い出して、平静を保とうとした。しかし、それもまったく効果はなかった。

やつは時間差でやってきたのだった。このやろう。

 

家までは徒歩10分。

この状態で帰るには、あまりにも遠い距離だった。

駅前の飲屋街、バーや立ち飲み屋が目に入る。

明日は休日。お酒でも飲んでぱーっと忘れてしまおうか。

……いや、お酒はだめだ。

彼は酒が好きだった。だから、今日は絶対に酒は飲まない。私もお酒は好きだったけど、酒を飲むという行為が、あいつと私の共通点をくっきりと浮かび上がらせてしまうような気がして、なんか、嫌だった。私の仕事は平日休みだったので、今からおしゃべりにつきあってくれる友達もいない。

仕方が無いので、10分かけて家に向かってふらふらと歩く。

自分の人生には男と酒と友達しか無かったのか、と、思うと、虚しい気持ちになった。

 

 

家に帰って、電気をつけた。

がらんどうの部屋は、私を温かく迎え入れてはくれなかった。

ベッドに鞄を投げて、いらだちを洗い流すかのようにシャワーを浴びた。

 

パジャマに着替えて部屋に戻る。

無意識に冷蔵庫を開けてビールを手に取ろうとする自分が悲しい。

今日は酒は無しだって言ったじゃんか。

冷蔵庫を強めに閉めて、ベッドに腰を下ろす。

テレビをつけてチャンネルを変える。一通りチェックして、消した。横になったが、モヤモヤとして眠れない。

この夜、どうやって過ごしたものか……。

 

 

……と、棚のドリップバッグが目に入った。本を貸したお礼に、友達からもらった物だった。

No.460と書かれているそれは、とても苦くて酸味のあるコーヒーらしい。

……どうせ眠れないのだ。とことん眠れない夜にしてやろうか。

一人悲しくバーでお酒を飲みながら、お店に充満するタバコの匂いを嗅いでいるよりはよっぽどましだろう。

 

ドリップしたコーヒーをカップに注ぐ。

静かな部屋にコーヒーの香りが満ちた。

そして、一口。

「なにモヤモヤしてんだよ」、とでも言わんばかりに、No.460は、私の脳に酸味と苦みのダブルパンチをくれた。

カップの中のコーヒーは真っ黒だった。まるで、宵闇のよう。

アイツと一緒にいたのも、この闇に飲まれないようにするためだったのかな。

今夜は、一人で、闇を飲んでしまおう。

深い夜の闇を飲み干して、そして、新しい明日を迎えるのだ。

 

 

深煎りのボディーと個性のある酸味、ダークチョコレートを思わせる苦みの調和が特徴的で、キャラメルのような香りがあるCottea No.460

あなたにとって最高の一杯のため。Cottea



カートは空です