コーヒーのある日常 #4「時が経つ」with Cottea No.230

コーヒーのある日常 #4「時が経つ

 

ふぅ、と、大きなため息と共に、俺は休憩室の安いソファーに重い身体を沈み込ませた。

昼間の慌ただしさを身体から追い出すように、もう一度、強めのため息をついて、天井を眺める。

窓から入ってくる西日が「店長」と書かれた名札を照らしていた。

ファミレスの午後2時は、ランチのピークが過ぎ、店全体が少し落ち着く時間だ。

 

もう一つため息をついて、立ち上がった。

備え付けの電気ポットに水を入れて、スイッチを入れる。そして、西日の射す窓から外を覗き込んだ。

この休憩室は建物の2階にあり、窓からは道の向かいにある家の梅の木が見えた。

3日前から、枝に白い花がポツリポツリと付き始めた。

にぎやかになりつつある梅の木を見ていると、春がゆっくりと、しかし確実に近づいてくるのを感じる。

 

俺は、流しからフレンチプレスの器具と、挽いたコーヒー豆を取り出した。

お湯が沸いたので、器具にお湯を注いで温める。そして、その後にお湯を捨てて豆を入れる。

最初は豆が浸るくらいまでお湯を入れて、豆を蒸らす。30秒後に残りのお湯を注いでいく。

これで、よし。

携帯を取り出して、タイマーを3分間にセットした。

コーヒー豆がふわふわと褐色の液体の中を漂う。

休憩時間には、必ずフレンチプレスでコーヒーを入れることにしている。

人の飲食のため疲弊した心と身体は、自分の飲食のためにちょっと手間をかける事で回復するのだ。

 

タイマーが鳴った。

プランジャーをゆっくり押す。抽出しているという、手応え。フィルタースクリーンが下がっていく。マグカップに注ぐ。香りが部屋に満ちる。

マグカップを片手にソファに座った。

休憩中に3月後半のアルバイトのシフトを決めなければいけない。

この時期のシフト決めはなかなかにキツい。主戦力の大学生が、春休みだったり、卒業旅行だったりなどでぐっと減ってしまうのだ。

時には別の店からヘルプに来てもらったり、自ら代わりに入ったりしなければならない。大変、だが、毎年恒例のイベントのようなものだ。自分だって、10年前の学生時代はそんな感じだったから、仕方が無いと思う。

 

10年前、俺はどこにでもいるような大学生だった。

ソフトボールのサークルに入っていて、春休みは合宿と言う名目で遠くに旅行に行き、明け方まで飲んで騒いでいた。

ちょっと古くさい合宿所。安っぽい食事と酒。夜。鳴り止まぬ人の声。酩酊の心地よさ……。

あの頃は、まるで、あんな時間が一生続くかのように日々を生きていたな、と、思う。

実際はそんなことは無かったんだけど。

一つ、ため息をついた。

騒ぎまくっていた大学生の頃と比べたら、ため息をつく回数も増えたし、体力も落ちた。

仕事柄、生活も不規則になりがちなので、体重は学生時代から15kgも増えた。

歳を、とったなぁ。

「はぁ……」

今日、何回ため息を付いただろうか、と、思う。

……いかんいかん。

身体をソファから持ち上げて伸びをした。

涌き出してきたネガティブを振り払うために、カップを片手に窓際へ行く。

梅の花。

昔は花といったら、桜くらいしか意識して見ていなかった(それも、大抵は花見の酒とセットのときだけ)。けれど、梅の花も悪くないな、と、最近思う。華やかさは劣るけど、しっかりとした色で柔らかく咲いている。

コーヒーを一口飲む。しっかりとした苦みとコクが口の中に漂った。

フレンチプレスで淹れたコーヒーは、コクが違う。

学生の頃は、こんなコーヒーの淹れ方も知らなかったなぁ。

時間が経過する、と、言うのは、好きな物が増えていく、と、言う事なのかもしれない。

ならば、歳をとるのも悪くない。

 

……贅肉はなんとかしないといけないんだけどね。

 

深煎りで感じられるボディーの中に程よい苦味があり、キャラメルやフローラルのような香りが感じられるCottea No.230
あなたにとって最高の一杯のため。Cottea



カートは空です